リュドミラのタチアナは何度か見ている(マチュー、オードリック)が、これまではその音楽性と技術的な側面での感動が大きかった。今回のマチューのオネーギンとでは心情が豊かに伝わってきて二人の演技に引き込まれた。
文学少女が恋をする。普段内気だが見る夢は大胆(鏡のPDD)、目覚めてすぐに熱い想いを手紙を認める。1幕既にここまでの流れが見事だ。
文学少女が恋をする。普段内気だが見る夢は大胆(鏡のPDD)、目覚めてすぐに熱い想いを手紙を認める。1幕既にここまでの流れが見事だ。
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手紙を彼女の目の前で破る場面では、紙片が落ち半ば暴力的に見える落とし方ではなく、手の中にしっかりと渡すあたり、惹かれた娘に己のプライドゆえに突き離したくなる矛盾した男の苛立ちが伝わってくる。
男の見栄とそのくだらなさはこのバレエ作品は本来それがクランこのテーマなのでは、というほど強く描いているもののはずで、レンスキーの決戦前に迷いを見せるソロと、女たちが来ると威勢を張る姿との対比でそれは明白だが、オネーギンにおいてはタチアナへの1幕の態度がダンサーによってまちまち(に見える)だ。
そうなると、リュドミラ演じるタチアナの迷いも際立つ。
昔片想いをしていた男が自分が華やかになった頃に今度は言い寄ってきた、という安っぽい話でもない。二人が多少なりとも1幕で心が交わったと感じたからこそ、彼女は昔フラれた男が言い寄ってきて心が揺れるのだった。
そんな二人の心の揺れを、3幕のPDDでは、引く、押す、身を投げ出す、受け止める、とリフトを多用することで視覚的に表した名振付に今回はいつになく納得した。
圧倒的身体能力で押してくるアプローチもクランコらしくて好きだが、40を超えた二人の今回の深い人物描写による物語は二人にしか成し得ないものだった。
記録。最後のPDDで出てきた時には、前の場面で涙を流していたのかマチューの左頬には涙の跡が既にあった。
そんな人が世界中のファンのアイドル的な扱いにも嫌な顔せず気さくに応じるんだから、バレエの観客層を広くした真の貢献者の一人であるよ。