意外だったが、この辺りの細かい解釈が、3幕でとても効果的だ。社交界の花となった彼女を見て後悔する、という流れでは時に行き当たりバッタリな馬鹿な男にしか見えないオネーギンだが、元々プライドを外せば奥底では彼女に惹かれていたことがマチューのオネーギンからは感じられ、よりドラマチックだった。
男の見栄とそのくだらなさはこのバレエ作品は本来それがクランこのテーマなのでは、というほど強く描いているもののはずで、レンスキーの決戦前に迷いを見せるソロと、女たちが来ると威勢を張る姿との対比でそれは明白だが、オネーギンにおいてはタチアナへの1幕の態度がダンサーによってまちまち(に見える)だ。
男の見栄とそのくだらなさはこのバレエ作品は本来それがクランこのテーマなのでは、というほど強く描いているもののはずで、レンスキーの決戦前に迷いを見せるソロと、女たちが来ると威勢を張る姿との対比でそれは明白だが、オネーギンにおいてはタチアナへの1幕の態度がダンサーによってまちまち(に見える)だ。
Comments
そうなると、リュドミラ演じるタチアナの迷いも際立つ。
昔片想いをしていた男が自分が華やかになった頃に今度は言い寄ってきた、という安っぽい話でもない。二人が多少なりとも1幕で心が交わったと感じたからこそ、彼女は昔フラれた男が言い寄ってきて心が揺れるのだった。
そんな二人の心の揺れを、3幕のPDDでは、引く、押す、身を投げ出す、受け止める、とリフトを多用することで視覚的に表した名振付に今回はいつになく納得した。
圧倒的身体能力で押してくるアプローチもクランコらしくて好きだが、40を超えた二人の今回の深い人物描写による物語は二人にしか成し得ないものだった。
記録。最後のPDDで出てきた時には、前の場面で涙を流していたのかマチューの左頬には涙の跡が既にあった。
そんな人が世界中のファンのアイドル的な扱いにも嫌な顔せず気さくに応じるんだから、バレエの観客層を広くした真の貢献者の一人であるよ。