卒業後ジェイフロ。
「僕が隙を作りますから、その間に逃げてフ口イド」
土埃に火薬に薬品のような何かに、濃厚な鉄錆の匂い。凡そ🦈を不快にさせるラインナップのそれらが充満する建物の片隅で、片割れが紡ぐ。固い声だ───なんて、らしくない態度。🦈は声に出さずに喉奥で嗤う。
🦈が言葉を発さないせいか、はたまた別の理由か。常の貼り付けたような笑みが面影もない片割れは、不機嫌な様子で鼻を鳴らす。
「……貴方も分かっているんでしょう。このままでは…」
「二人ともやられちゃうってェ?」
言えば、押し黙る🐬。ともすれば唄うかのような🦈の口調に苛立ちさえ覚えているようだった。🐬の余裕の無い様子に🦈はクスクスと笑いを
「僕が隙を作りますから、その間に逃げてフ口イド」
土埃に火薬に薬品のような何かに、濃厚な鉄錆の匂い。凡そ🦈を不快にさせるラインナップのそれらが充満する建物の片隅で、片割れが紡ぐ。固い声だ───なんて、らしくない態度。🦈は声に出さずに喉奥で嗤う。
🦈が言葉を発さないせいか、はたまた別の理由か。常の貼り付けたような笑みが面影もない片割れは、不機嫌な様子で鼻を鳴らす。
「……貴方も分かっているんでしょう。このままでは…」
「二人ともやられちゃうってェ?」
言えば、押し黙る🐬。ともすれば唄うかのような🦈の口調に苛立ちさえ覚えているようだった。🐬の余裕の無い様子に🦈はクスクスと笑いを
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「とにかく、此処にいても何も始まりません」
🐬が言いたいのはこうだろう。『自分が時間を稼ぐ。だからその間にフ口イドだけでも脱出して、体勢を立て直せ』と。まあ言わんとすることは分かるし🦈だって状況によっては同じ案を出していたかもしれない。
だがしかし、だ。
「そんで、オレだけ逃げてジェイト゛はどうするわけぇ?」
「迎えが来るまで適当に凌ぎます」
🦈から「逃げる」という言葉が出た事で気を良くしたのか、🐬の表情が幾分か和らぐ。🦈はせせら笑った。
「無理だろ」
「……おや、聞き捨てなりませんね。僕があのような雑魚の群れに遅れを取ると?」
「そっちじゃねえよ……」
🐬は本当に気づいていないのだ。そしてそれを気づかれていることにも気がついていない。
滑稽だ、本当に。
だってさぁ、と軽やかな響きでそれを紡ぐ。
「鼻、効いてねえんだろ」
「はい図星。そんなんでどうやってオレが迎えに行くまで凌ごうと思ってたわけ?」
🐬は微動だにしない。つまらない顔を🦈に晒して、唇を引き結んでいるだけ。つまり、そういうことなのだ。
「ジコギセイとかマジうぜーんだけど」
「…それでも足手纏いを連れて無謀な賭けをするより、余程勝算があるでしょう」
勝算ときた。🦈はギャハハと笑い声を上げ、すぐに呻き黙る。思わず手で押さえた服の下で何かがじわりと滲み出る気配がする。
「だぁから、無理だって」
「 ? 」
「バァ♡」
土埃に塗れたジャケットを、ガバリと開け放つ。途端、オリーブとゴールドが大きく大きく見開かれて、固まった。
「フ口イド…!」
オレだせぇ〜とケラケラ笑えば、またも鈍い痛みと共に、真っ赤な染みがじわりじわりと広がってゆく。常ならば気にも留めない鉄錆の匂いも、己から発されていると思えば勘に触るモノでしかない。
「すぐに止血をッ」
「もうとっくにしてるっつーの」
──効果は出ていないが。心の声は声に出さずとも🐬には十分過ぎるほどに伝わっていることだろう。その証拠に今は、辛うじて保たれていた真顔すらも崩れ去って何とも情けない顔を晒している。🦈はあーあ、と目尻を下げた。
土埃に火薬に、得体の知れない薬品の匂いが充満する建物の片隅で、周り中敵だらけで、鼻が使えないウツホ゛と、腹に穴開けて一歩も
本当に、なんて滑稽な話だろうか。
「行けよ、ジェイト゛」
「………………は?」
ゆるゆると目を丸くしていった🐬は言葉の意味を理解した途端に目を剥いて、馬鹿なことを言わないでくださいと言葉を荒げる。
「その方が“勝算”あんでしょ」
そう言えば、ぐっと声を詰まらせる🐬。鼻が使えないとはいえ、五体満足であればまだ逃げ果せる可能性がある。🦈の言う事は何も可笑しくはない。
“足手纏いを連れて無謀な賭けをするより”は余程良い提案をしているはずなのに、🐬の顔は少しも晴れない。その様を浴びた🦈は満足そうに頷くと、ちょいちょいと手招いて🐬を傍らに呼び寄せる。片膝をつくと、首に
惑う瞳と目が合う。ねえジェイト゛、と甘く囁けばふ、と吐息が唇に触れる。
「──どうすんのォ?」
「……愛しい番が怪我を負っているというのに、置いていけるわけないでしょう」
「だよねぇ」
喋った拍子にごぽりと口から血が溢れ出る。伝い落ちるソレをじっと見つめたかと思うと「舐めていいですか」だなんてお伺いを立てる🐬。お好きにどーぞの意味を込めて🦈が唇を寄せると、遠慮のかけらもない仕草で分厚い舌に攫われる。ちゅる、ちゅく、と次第に水音が増していき、やがてそれは深い口づけへと変わっていった。──辺りには相変わらず銃撃音が響いていて、喧騒を受け止めたコンクリート壁から