職業人生を通して、ずーっとテック業界を追いかけてきた。
デジタルテクノロジーは世界を良くする。インターネットとオープンソースソフトウェアは世界の公共財。ムーアの法則は楽観的な未来予測を現実にする——そのように考えていた。
2010年代の半ば、楽観的な見方を変える必要を感じた。いらい、新しい思考とことばを求めて、あがき続けている。
ひとまずたどりついた思考が「ITと人権」。IT企業の社会的影響力が大きくなり、デジタルテクノロジーが人を害するケースが出てきた。技術とビジネスだけでなく、人権を考える責任が出てきた。
残念なことだが、シリコンバレーはまったく別の結論を見いだした。
(続く
デジタルテクノロジーは世界を良くする。インターネットとオープンソースソフトウェアは世界の公共財。ムーアの法則は楽観的な未来予測を現実にする——そのように考えていた。
2010年代の半ば、楽観的な見方を変える必要を感じた。いらい、新しい思考とことばを求めて、あがき続けている。
ひとまずたどりついた思考が「ITと人権」。IT企業の社会的影響力が大きくなり、デジタルテクノロジーが人を害するケースが出てきた。技術とビジネスだけでなく、人権を考える責任が出てきた。
残念なことだが、シリコンバレーはまったく別の結論を見いだした。
(続く
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背後には、株主資本主義と社会全体の厚生がもはや両立しない現実がある。
インターネット普及率が世界人口の半分を超え、ムーアの法則も減速したいま、シェアも規模も大きすぎるシリコンバレー流のビッグテックは以前のスピードでは成長できない。
だが、ビッグテックの経営者たちは、「社会と協調する倫理的な資本主義」という考え方を受け入れることができなかった。
テック投資家マーク・アンドリーセンは「民主党政権は自分達を殺そうとした」と話す。連続起業家で世界一の富豪であるイーロン・マスクはあらゆる規制、規範を公然と嘲笑する。
かれらは、21世紀になってから登場した新しいアイデア、社会との協調や環境・社会・人権を考慮した経営——ステークホルダー資本主義、ESG、SDGs、ビジネスと人権といった新しいフレームワークを理解することができなかった。
彼らは、人権の達成度向上、社会の進歩というフレームワークを理解することを拒否した。すなわち、進歩派ではなく、"保守派"と呼ばれる反動主義に付くことを選んだ。社会的責任を認めず、「企業は社会を考えず利益だけを追求せよ」というフリードマンの古くさい考え方を選んだ。
デジタルテクノロジーそのものが悪である訳ではない。だが、テック企業が長年にわたり置かれていた特権的な経済環境が、かれら怪物を生み出した。
まず「技術が世界を変える」楽観論が通用しなくなる。理由は、ムーアの法則の減速、インターネット普及率向上、ビッグテックのシェアの大きさ。じっさい、GoogleやFacebookの後で彼らを越えるテック企業は登場していない。
テック企業経営者たちも「思うようにいかない」と感じているはずである。ザッカーバーグは次の一手を求めて決済、VR、AIと巨額投資を繰り返す。ビッグテック各社がAIデータセンターに巨額投資をするのは、他に急成長のネタが見つからないからだ。だがリターンは不確実である。
世界はすでに減速している。彼らはそのことを認めたくない。
だがビッグテック経営者たちは、こうした考え方を拒否する。
いままでさんざん持ち上げられてきたので、新しい思考を受け入れられないのだ。「自分たちのビジネスが人々を害している」という批判を受け入れられない。
この構図をまず認識すること。認識を共有すること。それが私の当面の目標だ。
今回も「新しい知恵」が必要になってきてる気はします(感想
ビッグテック経営者はもとより、いわゆる「テック・ブロ」と呼ばれる人々は、「技術とスタートアップ経営を身につけた自分たちは一般人よりもよく分かっている」という意識を持っている。どの分野でも、専門家とはそのような考え方をするだろう。
問題は、その信念を専門外の分野に向けてしまうことだ。
このような思考のバグを付いて、新反動主義、加速主義、「暗黒啓蒙」などと呼ばれる怪しい信念体系が広がった。ピーター・ティールやマーク・アンドリーセンはこうした怪しい信念体系を信奉しているし、イーロン・マスクも同類である。
(続く